公認会計士試験には、日本の国家資格とは別に、米国で公認会計士として活躍できる「米国公認会計士」という資格があります。活躍の場を日本企業だけでなく海外にも広げたいのであれば、米国公認会計士試験に挑戦するのもよいでしょう。米国公認会計士試験に合格することにより、活躍の場以外にもさまざまなメリットを得られます。
当記事では、米国公認会計士試験の難易度とともに、試験内容や日本の各資格との違いについて解説します。
1.米国公認会計士の資格とは?
USCPAとも略される米国公認会計士は、アメリカの各州により認定される公認会計士資格です。米国の資格ですが世界のさまざまな業種に役立ち、キャリアアップにもつながるので、ビジネス資格として広く認知されています。
USCPAの資格者には、監査法人やコンサルティングファーム、外資系企業をクライアントに持つ会計事務所などで働く道が開かれます。また、USCPA試験は英語で出題されるため、資格取得によって英語圏の外資系企業やグローバル企業に評価されやすい点も魅力です。
USCPAも日本の公認会計士も、監査業務を行うために必要な資格として共通していますが、日本で資格を活用する場合は両者の違いを理解しておくことが大切です。USCPAを取得すれば、日本でも監査法人や会計事務所などでもある程度は働けますが、独立開業して独占業務を行うことはできません。日本で公認会計士を名乗ってキャリアを形成したい場合は、日本の国家資格である公認会計士資格の合格を目指す必要があります。
2.現在の米国公認会計士試験の概要
米国公認会計士になるには、米国公認会計士試験に合格する必要があります。USCPAの国際的な需要の高まりによって、ヨーロッパや南米など、アメリカ以外の地域でも試験が受けられるようになりました。日本では、2011年より米国公認会計士試験が東京や大阪で実施されています。
ここでは、米国公認会計士試験の受験資格や実施方法などについて解説します。
2-1.受験資格
USCPA試験の出題科目や難易度は全米で統一されていますが、受験資格は出願先の州によって異なるため注意が必要です。受験資格は、主に学歴要件と単位要件に分けられます。学歴要件は、4年制大学を卒業していることを掲げている州がほとんどですが、中には高卒や大学在学中でも受験可能な州があります。
単位要件は、会計単位やビジネス単位を一定以上習得しているか確認するものです。出願先の州によって、習得するべき単位内容や必要な単位数が異なるため、受験する州の要件を早めに確認しておきましょう。
州ごとの受験要件の実例は以下の通りです。
・ワシントン州
- 4年制大学の学位
- 総取得単位150以上
- 会計単位24以上(Upper Divisionは15単位以上必要)
- ビジネス単位24以上
・ニューヨーク州
- 総取得単位120以上
- Financial Accounting(Upper Division)、Auditing(Upper Division)、Taxation、Management Accountingの4分野の指定科目を取得していること
・アラスカ州
- 4年制大学の学位
- 会計15単位以上
※4年制大学に在学中の場合でも、卒業に必要な単位数に対して不足する単位が18単位以下であれば受験可能です。
2-2.試験の実施方法
USCPA試験は全4科目のうち、1科目から受験できます。ただし、最初の科目合格から18か月以内に全4科目を合格しなければならないため、注意が必要です。
テストセンターのパソコンを通じて受験し、各科目ともに99点満点中75点以上取得することで合格できます。他の受験生の成績や人数に関係なく、一定の能力に達している人全員が合格できる仕組みです。
受験場所は、国内では東京と大阪の2か所から選択でき、そのほかにも全米各地のプロメトリックテストセンターが選べます。共通試験日が決まっている訳ではなく、受験者各々が受験したい日程で試験会場をオンライン予約する形式が採用されています。テストセンターの予約枠が空いていれば土曜や日曜も受験可能なため、社会人でも挑戦しやすいでしょう。
2-3.試験内容
USCPA試験は、出願した州に関係なく共通の科目から出題されます。具体的な科目名と出題内容は以下の通りです。
科目名 | 出題内容 |
---|---|
AUD Auditing and Attestation | 監査・証明業務・職業倫理 |
BEC Business Environment and Concepts | 経済学・財務管理・IT・管理会計・コーポレートガバナンス |
FAR FInancial Accounting and Reporting | 企業・政府・非営利法人の会計 |
REG Regulation | 税法・商法・企業体などの諸法規 |
問題は4択問題(Multiple Choice)と総合問題(Task-Based Simulation)で構成されます。BECは総合問題において記述式の問題(Written Communication)が出題されるため、注意が必要です。
3.米国公認会計士試験の難易度
USCPA試験の4科目の合格率は、米国公認会計士協会(AICPA)によって公表されています。2022年の科目ごとの平均合格率は以下の通りです。
科目名 | 平均合格率 |
---|---|
AUD | 47.90% |
BEC | 59.85% |
FAR | 43.76% |
REG | 59.85% |
合格率は、各科目ともに50%前後で推移しており、資格取得難易度は高くないように見えるかもしれません。しかし、USCPA試験は英語で出題され、上記データも全世界の平均合格率を表しています。言語も1つのハードルになっており、日本人の4科目平均合格率は30%前後とも言われています。各科目の内容のみならず、英語学習などの準備も必要です。
ここでは、日本の公認会計士や簿記などと比較しながら、米国公認会計士の試験難易度を解説します。
出典:AICPA&CIMA「Learn more about CPA Exam scoring and pass rates」
3-1.日本の公認会計士試験との難易度の違い
金融庁から公表されているデータによると、令和4年度の日本公認会計士試験の最終合格率は7.7%でした。試験合格率だけを比べると、公認会計士試験はUSCPA試験よりも難易度が高いと言えます。
しかし、実際には受験要件などの基準が異なるため、両者を単純に比較することはできません。具体的には、USCPAは学歴や単位取得に関する高いハードルが設けられているのに対し、公認会計士試験は受験資格が存在せず誰でも受験できるという違いがあります。さまざまな人が受験できる公認会計士は、受験者個々の知識レベルに差が生まれやすく、それほど学んでいない人が受験することにより全体の合格率を落としている背景もあると言われています。
公認会計士は深い知識が求められ、年に2回と受験できる回数も限られる点で取得が難しい資格です。USCPA試験も資格要件のハードルが高く、基礎的内容ながら幅広い知識が求められるため、決して簡単な資格ではありません。
3-2.日本の簿記一級との難易度の違い
簿記一級は、難関資格として知られ、年に2回試験が実施されています。出題される科目は商業簿記や会計学、工業簿記、原価計算の4科目です。上記で紹介したUSCPA試験とは出題内容などが大きく異なり、経理職に必要な知識やスキルが問われます。
合格には、合計70%以上の正答率が必要なだけでなく、それぞれの科目で40%以上の正答率が必須です。日本商工会議所などが公表しているデータによると、2022年11月に実施された簿記一級試験の合格率は10.4%でした。10%に届かない年もあり、合格率で比較すると、簿記一級試験はUSCPA試験よりも難易度が高いことが分かります。
ただし、簿記一級試験も受験要件が設けられておらず、受験に特別な資格は必要ありません。また、求められる知識の範囲や試験の質などが異なるため、簿記一級試験とUSCPA試験を単純に比較することは困難です。
簿記一級の試験は、USCPAや公認会計士の資格試験とは違って会計分野に範囲が限定され、深い理解や知識が求められる点が難しいポイントと言えます。USCPA試験は、会計を含む経済やビジネス、監査や諸法規などの幅広い内容を網羅的に試されるのが特徴です。
4.2024年以降の米国公認会計士試験の変更点
USCPA試験は2024年1月から制度変更が予定されているため、2024年以降に受験予定の方は注意が必要です。科目構成などが形を変え、試験制度が大きく進化することから「CPA Evolution」と呼ばれ、注目を集めています。
ここでは、試験科目と出題形式について、それぞれ変更点を解説します。
4-1.試験科目の変更点
変更後の新しいUSCPA試験制度では、必須科目である3つの「コア科目」に加えて選択科目「ディシプリン科目」から1科目を選び、合計4科目に合格することが必要です。AICPAはコア科目として、以下の3科目を公表しています。
科目名 | 出題内容 |
---|---|
CORE FAR FInancial Accounting and Reporting | 財務会計 |
CORE REG Taxation and Reporting | 税務・ビジネス法 |
CORE AUD Auditing and Attestation | 監査及び諸手続き |
選択科目であるディシプリン科目は、以下の3科目です。
科目名 | 出題内容 |
---|---|
BAR Business Analysis and Reporting | ビジネス分析と報告 |
ISC Information Systems and Controls | 情報システムとコントロール |
TCP Tax Compliance and Planning | 税務コンプライアンスとプランニング |
上記のうち、受験者が選んだ1科目を受験するディシプリン科目では、深い知識やスキルが問われるのが特徴です。もし、最初に選択した科目で不合格になった場合でも、別の科目を選んで受験し直すことができます。
4-2.出題形式の変更点
新試験制度の導入時には、以下のように試験形式も変更される予定です。
・記述問題の廃止
現在の試験科目BECで出題されている記述問題(Written Communication)が廃止されます。
・計算ツールの変更
現在は計算のためにExcelを使用できますが、新しい試験制度ではJavaScriptベースのスプレッドシートに変更されます。
・テストレットの難易度変化の廃止
これまでの択一問題では、コンピュータがテストレット(問題群)の正答率を参照し、次のテストレットの難易度を調節する仕組みが採用されていました。新試験制度では、難易度の変化が廃止される予定です。
・リサーチ問題は総合問題で出題
Research問題は、Authoritative Literatureのデータベースを使い、会計などの基準や税法条文を検索して解答するものです。新試験では基準や税法などが参照資料(Exhibits)として与えられ、Research TBS問題として複数の問題に解答することになります。
5.米国公認会計士を取得するメリット
国際的な認知度が高いUSCPA資格を取得すると、日本内外でのキャリア形成において、さまざまなメリットが得られます。ここでは、USCPAを取得するメリットについて具体的に解説するため、資格取得を目指す際の参考にしてください。
5-1.海外で活躍できる
日本の公認会計士資格は日本でのみ活用できますが、USCPAの資格は、国境を超えて活用できる点がメリットです。ライセンスを取得したアメリカの州だけで会計業務に携われる訳ではありません。
USCPA資格を取得した場合、全米州政府会計委員会(NASBA)と国際相互承認協定(MRA)を結んでいる国々では、追加研修などを受けることで現地の会計士業務が行えます。NASBAによると、2023年4月時点でMRAを締結している国は以下の通りです。
- カナダ
- メキシコ
- オーストラリア
- ニュージーランド
- 南アフリカ
- アイルランド
- スコットランド
また、USCPAはアジア圏だけでも韓国や香港、シンガポールなど多くの国籍の方が挑戦している資格です。世界的に認知されているUSCPAは、海外勤務を目指している方にもおすすめの資格と言えるでしょう。
5-2.日本でも活躍の場が広がる
USCPAは、日本国内で会計や監査業務に携わり働く場合にも、スキルアップやキャリアアップにつながる資格として注目されています。近年では、企業のグローバル化に伴い、日本を拠点とする外資系企業や海外展開を進める企業が増えています。
国際基準のビジネススキルを保証する資格として、USCPAを取得することは、就職や転職においてアピールポイントとなるでしょう。
日本に拠点を置く外資系企業でUSCPA資格を活用しながら働く場合でも、日本で法人税を納付するため、米国会計基準に加えてJ GAAPでの会計処理の知識が必要です。
5-3.英語力を証明できる
USCPAの試験はすべて英語で出題されるため、資格取得によって、英語力を持つ公認会計士であることが証明できます。大手企業や海外展開を進める会社では、管理職への昇任要件とされている場合もあるほど、英語力が重視されています。
勤務する会社や配属先によっては、海外の監査人とコミュニケーションをとったり、海外の会計制度や契約書を確認したりする際などに高い英語力が必要です。一般企業の国際部門に配属になった場合にも、海外企業を相手にしたメールや電話、交渉が発生するケースがあります。
会計士のスキルだけではなく、高いビジネス英語スキルを証明できるUSCPAは、グローバルに仕事ができる人材としての付加価値を創出してくれる点もメリットです。
5-4.ITのスキルを身につけられる
近年では、会計システムや新しいITツールを導入する企業が増えており、会計業務に携わる際にもITスキルが求められるようになりました。監査やコンサルティング領域においても、ITスキルは重要であり、キャリアアップに必要なスキルとして注目されています。
出題範囲には会計や諸法規、ビジネスなどの幅広い内容が含まれているため、USCPA受験を通してITの基礎知識が習得可能です。
6.米国公認会計士に合格するためには?
USCPA合格には、ある程度の学習時間を確保する必要があります。一般的には、約1,000時間以上の学習時間が必要とされています。ただし、会計知識や英語力の基盤がない場合は約1,500〜2,000時間以上の時間が必要とも言われるため、現状に合わせた学習スケジュールを組むことが大切です。
日本の公認会計士試験の合格に必要な学習時間は3,000時間程度とされており、USCPA試験のほうが一般的に必要な勉強時間は少ないと分かります。
6-1.米国公認会計士の勉強方法
USCPA試験では出題科目の学習と英語学習を両立させる必要があります。英語力の基盤がある人でも、スムーズに問題を解けるよう、長文読解などのトレーニングを行っておくと安心です。
出題科目については、学習する順番も意識しましょう。例えば、FARで問われる財務会計の知識はAUDでも数多く問われるため、FARを学んでAUDの学習に移ると効率的に理解を深められます。テキストや問題集を反復し、理解を深めることが大切です。
また、USCPA試験は独学も可能ですが、予備校を活用するのもおすすめです。USCPA予備校では試験に精通した講師にノウハウを共有してもらえるだけではなく、つまずいた部分も個別に教えてもらえるため、効率よく試験対策が進められます。
USCPA試験は試験制度や受験手続きが複雑な点も特徴です。手続き中にトラブルが発生した場合は自分で情報収集を行ったり、AICPAに英語で直接問い合わせたり、解決に多くの時間を要する可能性があります。
予備校では、試験に関する最新情報の提供や手続き面でのサポートが受けられるため、勉強に集中できる環境が整えやすいでしょう。さらに、同じ目標を持つ予備校生とともに学習することは、USCPA試験合格へのモチベーションアップにもつながります。
まとめ
米国公認会計士試験の合格率は各科目50%程度であり、日本の公認会計士試験の合格率よりも高い水準です。ただし、米国公認会計士試験は問題がすべて英語で出題されるため、高い英語力と幅広い知識が必要で、決して難易度の低い試験ではありません。米国公認会計士を目指す際は、自らの英語力や会計知識の量に応じて勉強のスケジュールを立てることが大切です。
米国公認会計士の資格により、会計業務や監査業務で活躍できる範囲はさらに広がります。海外や外資系企業の会計監査に関わりたい方は、資格取得を目指すとよいでしょう。