有償ストックオプションとは、新株予約権の一種です。新株予約権は一定の行使価格を会社に支払うことで、株式を取得できる権利です。行使時点の株価が行使価格を上回っている場合、その差額が利益となります。
この記事では、有償ストックオプションの意味や、無償ストックオプションとの違いについて、詳しく解説します。また、有償ストックオプションのメリット・デメリットについても紹介するため、ストックオプションの活用について検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1.有償ストックオプションとは
有償ストックオプションとは、新株予約権の一種で、役員・従業員などが発行価額を支払って自社のストックオプションを購入するシステムです。あらかじめ設定された期間内に、一定の価額でストックオプションを購入できます。
有償ストックオプションでは、発行価額を払い込んだタイミングでは株式の購入権を予約しただけにすぎません。企業が設けた一定の行使条件を満たすと、ストックオプションの購入者が実際に株式を購入・保有する権利を行使できるようになります。行使条件は前もって決めておく必要があり、業績や株価が一定の水準に到達するなど、業績条件が設定されることがほとんどです。
ストックオプションの購入者は、購入・保有した株式を売却した時点で、購入時と売却時の差額をキャピタルゲインとして報酬を獲得します。
1-1.有償ストックオプションの発行価額
発行価額とは、ストックオプション1個あたりの価額です。ストックオプションを購入する際には、購入したい株数分のストックオプション発行価額を支払う必要があります。
発行価額は公正価値を基に設定することが基本です。公正価値は現段階の株価などを判断材料とし、将来の株価を予測することで算出します。
また、有償ストックオプションでは行使条件によって購入者が実際に権利行使できる確率が下がり、最終的な発行価額が公正価値よりさらに下がる場合がほとんどです。公正価額は株価の40〜60%程度となることが多く、実際の発行価額を株価の1%以下まで抑える企業もあります。
1-2.有償ストックオプションの行使価額
行使価額とは、実際にストックオプションの権利を行使する際に支払う価額です。行使価額には、原則的に現時点での株価以上の価額を設定します。行使価額の基になる株価は、直近の普通株の取引事例、もしくは特定の計算方法で算定された株価を時価として考えるのが一般的です。特定の計算方法で算定を行う方法は、直近の株取引の実績がない場合に使用するものです。
行使価額は、権利行使時点だけでなく、株式売却時のキャピタルゲインにも大きく影響します。
2.有償ストックオプションと無償ストックオプションの違い
有償ストックオプションに対して、無償ストックオプションがあります。有償ストックオプションは発行にあたって購入者が発行価額を支払う必要がある一方で、無償ストックオプションの場合は購入者の支払いを必要としません。
無償ストックオプションでは、企業が無償でインセンティブを与えることから、税制上は給与と同等の扱いを受け、給与課税が発生します。権利行使時にかかる給与課税が免除されるためには、特例条件を満たして税制適格ストックオプションを導入することが必要です。
また、有償ストックオプションと無償ストックオプションでは、制度の性格が異なります。無償ストックオプションは、役員・社員に対する「報酬」としての側面が強い制度です。一方、有償ストックオプションは、有償で購入した上で業績が上がったときにインセンティブが得られる点から、「投資」という側面が強くなります。
3.有償ストックオプションのメリット4つ
有償ストックオプションを導入すると、企業側にはさまざまな面でメリットが発生します。導入前に、メリットが自社の現状に合っているかどうかを判断しましょう。ここでは、有償ストックオプションを導入することによるメリットを解説します。
3-1.役員・従業員のモチベーションが向上する
有償ストックオプションには、役員・従業員のモチベーションを向上させる効果が期待できます。
有償ストックオプションは企業の業績・株価を上げると、ストックオプションの購入者に対しても直接インセンティブが生じるシステムです。役員や従業員にとっては、単純に業績・株価の上昇を目指すメリットがより分かりやすく、高いモチベーションを保って業務に邁進できるようになります。
役員・従業員のモチベーションが向上することで、付与対象者・企業ともに経済的利益が高まる点が、有償ストックオプションの魅力です。
3-2.報酬決議が必要ない
役員・従業員に無償のストックオプションを付与する場合は、会社法における「報酬等」として扱い、株主総会で報酬決議を行う必要があります。一方、有償ストックオプションは購入者が対価を支払うため、報酬等にはあたりません。公正価額の有償ストックオプションは有価証券扱いになるため、株主総会での報酬決議を通さずに付与できます。
特に公開会社の場合、ストックオプションの発行自体を取締役会で決議できるので、株主総会での決議をスキップできるのは大きなメリットになります。ただし、非公開会社ではストックオプションの発行自体に株主総会での決議が必要となるため、注意しましょう。
3-3.社外の者にも付与できる
無償ストックオプション(税制適格ストックオプション)の付与対象者には、一定の制限があります。一方で、有償ストックオプションの場合は付与にあたって人的要件が課されません。発行価額を支払ってさえもらえれば、役員・従業員だけでなく、社外の人に対してもストックオプションを付与できる特徴があります。
社外の人にもインセンティブを提供することで、社外にいる優秀な人材の協力を取りつけやすくなります。人材確保の戦略の幅を広げたい企業にも有償ストックオプションがおすすめです。
3-4.税制面での魅力がある
有償ストックオプションでは、税制面でのメリットが生じるのも魅力の1つです。有償ストックオプションや税制適格ストックオプションでは、課税の対象が株式の売却時に限定され、「分離課税」となります。一方で無償の税制非適格ストックオプションでは、株式取得時に「総合課税」の対象となります。また、株式売却時に発生する売却益は「分離課税」の対象です。
【課税のタイミングと課税方法】
株式取得時 | 株式売却時 | |
---|---|---|
有償ストックオプション | 課税対象外 | 分離課税 |
税制適格ストックオプション | 課税対象外 | 分離課税 |
税制非適格ストックオプション | 総合課税 | 分離課税 |
総合課税は累進課税が適用されるため、利益額が大きいほど支払う税金が高くなります。そのため、利益が大きい場合は分離課税での課税のほうが有利となります。
4.有償ストックオプションのデメリット2つ
有償ストックオプションには、さまざまなメリットがある一方で、いくつかデメリットもあります。ここでは、有償ストックオプションのデメリットを紹介します。有償ストックオプションの導入を検討する際は、メリット・デメリットの両面をよく比較しましょう。
4-1.発行価額の払い込みが必要になる
無償ストックオプションと異なり、有償ストックオプションの場合、購入者は予約のためにまとまった金額を支払う必要があります。そのため、有償ストックオプションには人的要件による制限はかからないものの、先に発行価額を準備できない人は利用できません。
ただし、発行価格を株価より大幅に低く設定したり、給与天引きを利用して分割で発行価格を請求したりすることで、購入時の負担を軽減できます。有償ストックオプションを活用する場合は、発行価額や支払い方法を購入者に無理がない範囲で設定しましょう。
4-2.行使できないリスクがある
有償ストックオプションは、条件をクリアしなければ権利を行使できないというリスクを抱えています。権利を行使できる条件としては、業績・株価の上昇などがあります。これらの条件を満たせない場合、ストックオプションを購入していても購入者はストックオプションを行使できません。
ストックオプションの発行価額を抑えようとすれば、行使するための条件を厳しくする必要があります。ストックオプションの行使条件を緩くすると、ストックオプションの公正価格が上がってしまいます。
購入しやすく、かつ行使しやすいストックオプションとなるように、発行価額や行使条件のバランスを取ることが大切です。
まとめ
有償ストックオプションとは、購入希望者が発行価額を企業に支払って入手するストックオプションです。無償で取得できるストックオプションとは異なり、ストックオプションをお金を支払って購入する必要があります。このような観点から、有償ストックオプションは「投資」としての意味合いが強いものです。
有償ストックオプションの活用を検討している場合は、企業経営や金融商品への深い理解が欠かせません。知識に不安がある方は、財務・金融商品の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。